<座談会>紺野登×玉井克彦×神河恭介 進行:橘昌邦
イノベーションとオフィス ~「場」の必要性~
玉井
玉井克彦氏
ご評価頂きありがとうございます。しかし、その「新しい働き方」、例えば「交流」や「コラボレーション」による成果は一般には見えづらいものという印象が有ります。
紺野
NASAではFRR(Flight Readiness Review)と呼ばれるスペースシャトル発射を判断する直前会議があります。飛行士の家族やサービスサポートスタッフなど、通常会議には参加しないような人々も含め、多様な関係者を一同に集めて行うものです。
そのため、非常に大きな会議スペースが用意されています。
専門家以外の人々も同時に議論することで、収集がつかず場合によっては飛ばない方が良いという選択肢まで出てくるかもしれません。しかしFRRは飛ばすことが前提となっています。
NASAの重要なミッションは、最先端の技術を民営化し安全に使えるようにするということですが、このように多様な視点で一度に検討することで、不測の事故を未然に防ぐことが可能になるのです。
玉井
なるほど、「実行する」という強い意思が前提となり、皆でスピーディに知恵を出し合うということですね。確かに現在の日本おいて、そのような議論の仕方を採用している企業は少ないかもしれません。
神河
そのような新しい知を創出する空間は、先生の著書で繰り返し出てくる「場」というものですね。
紺野
そうです。「場」とは「働く人々が知識を創造・活用する上で相互に意味を共有するための動的な文脈」と私は定義していますが、こういった「場」が知識創造とか組織的判断には大事になります。(注:この場合の「場」とは、物理的な空間だけではなく、場面や現場といった時間的な要素を含みます。)
「場」は、組織がする仕事とかイノベーションの性格によって自在に変わります。例えばNASAのように瞬時の判断が必要な場合、一度に大勢の関係者が集まれるスペースが重要になってきます。
これからの企業にとっても、いかにスピーディにイノベーションを行っていくかは学ぶところが非常に大きいでしょう。
また、多様な知に自由自在にアクセスできるネットワークも重要です。組織が「たこつぼ」状態だと、沢山の知があってもアクセスできません。知の多様性もなく、アクセスもできないような企業からは、イノベーションはまず生まれないでしょう。
ちなみに「場」という言葉は、イノベーションに関する国際的な研究において、そのまま「場(Ba)」として通用しています。
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参考書籍1
「知識創造の方法論 ナレッジワーカーの作法」
野中郁次郎・紺野登 著 東洋経済新報社 2003 -
参考書籍2
「儲かるオフィス・社員が幸せに働ける「場」の造り方」
紺野登 著 日経BP社 2008
神河
『新しいことでも「実行する」前提で動く』、そのようなスピーディなイノベーションを行おうとしている企業が増えれば、オフィスの中の「場」を活かした「新しい働き方」も自然に増えてくるということですね。