WORKSCAPE INNOVATION

働く風景を変えていくジャーナル。それが「WORKSCAPE INNOVATION」です。次世代オフィスのコンセプトの開発・研究に長年携わってこられた岸本章弘氏がお届けします。

No.03 高度化するオフィスの役割と機能 2011.05.23 up

文および図・写真=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表)

ビジネス活動の拠点

写真1:ミーティングなどに使われるプラザ

写真1:普段は社内ミーティングなどに使わる「プラザ」。
イベントに合わせてセッティングできるように、
天井にはさまざまなAV機器や照明が備わる。

写真1:オフィス

写真2:プラザを囲む間仕切りは適度に透けており、
イベントの様子が周囲のワークスペースからもうかがえる。

オフィスの基本的な役割は、企業組織の活動拠点であることでしょう。その立地選択には多岐にわたる要因が関係するはずです。中には相反する条件や要件も含まれ、それらを加味してバランスのよい答えを得ることは、複雑な連立方程式を解くような作業かもしれません。

それでも、今日のオフィスをとりまく変化を考えると、その連立方程式は解きやすくなっているとも言えます。ITの進歩によって働く時間や場所の選択肢が広がり、ビジネスに不可欠なコミュニケーションのチャネルが多様化したことで、物理的な立地や距離に関係するさまざまな制限条件が緩やかになってきているからです。これらの課題に対しては多様な代替策があるわけですから、むしろそれら以外の要件の中から、それぞれの企業のビジネス環境や事業戦略に応じてこだわりの強い要件を先に決めればいいわけです。重要な値が固定されて変数が少なくなれば、それだけ連立方程式も解きやすくなるでしょう。

例えば、顧客やビジネスパートナーに訪れてもらいやすいオフィスをつくりたいなら、交通のアクセスのいい都心にオフィスを構えるのは有効な選択肢でしょう。生産現場との距離を近づけたいから郊外に集約、という選択肢もあるかもしれません。あるいは、各地の顧客に密着するために臨機応変に分散する、ということも可能でしょう。どれが正しいというわけではなく、それぞれに合ったオフィス戦略の選択肢があるということです。

ちょっとユニークな例を見てみましょう。写真1~2は、大手のビジネスソフト開発会社SAPがニューヨークに置いた、グローバルなマーケティングを受け持つ子会社です。このオフィスの中央には、「プラザ」と呼ばれる多目的スペースがあり、自社製品のプロモーションやトレーニングなど、さまざまなイベントを通じて多くの顧客が訪れる場所になっています。自分たちのホームグラウンドに顧客を招き、従来はホテルなどの社外施設を借りていたイベントを自社内で開催しているわけです。こうすることで、以前は限られた担当者だけがもっていた顧客との接点を組織全体で共有できるようになり、顧客志向の経営スタイルへの転換に貢献したそうです。

もちろん、この例のように、必要な機能だからといって必ずしもすべてを自前で持つ必要はありません。柔軟な働き方を活かして街の施設やサービスも積極的に活用すれば、それぞれの組織のニーズに合ったオフィス戦略を構築することができるでしょう。多様なオフィス機能の一部を、街にアウトソーシングするわけです。(図1)こうしたやり方は単にコストの最適化だけでなく、それぞれのプロに任せることによって、サービスやインフラのレベルを高水準に保つ上でも有効でしょう。

図2:空間への定住度の基づくワークスタイルの分類例

図1:街の施設を効果的に組み合わせれば、多様で柔軟なオフィス戦略が構築できる。

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