文=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表) 写真提供=株式会社ファーストリテイリング
人事戦略を支えるオフィス
古くから重要な経営資源と言われる「ヒト・モノ・カネ」。その筆頭に挙げられる「ヒト」に対して、オフィスは何ができるのでしょうか。本コラムの第2回「多様な人材のマネジメントを支えるオフィス」では、多様化し流動化するオフィスワーカーのための支援環境という視点から、オフィスデザインの可能性について考えました。
しかし、実際のオフィスづくりにあたっては、こうした一般論に加えて、「この会社に求められる人材を、どのように支援するか」といった、個別企業ごとにもう一歩踏み込んだ課題設定が必要になります。事業分野や環境条件が企業ごとに異なるわけですから、現実の組織作りや人事戦略の課題はより具体的で個別的なものになります。
今回は、そうした課題の一つとして、「求められる人材の育成を支援する」という点において、オフィスがどのように貢献できるのか考えてみましょう。
ベンチャー精神を取り戻す
「ユニクロ」ブランドで知られる株式会社ファーストリテイリング。同社の東京本部オフィスは今、東京六本木のミッドタウン・タワーにありますが、その前のオフィスは千代田区九段北にありました。ただし、この旧オフィスが使われたのは2006年3月からの4年間だけで、同社は2000年の東京本部開設以来、社員数の増加にともなって移転を繰り返しています。
これらの移転には、組織の拡大に対応するという直接的な理由がありましたが、直近の2度の移転に際しては、それぞれのオフィスは単に広くなっただけではなく、その都度違ったデザインが採用されています。その背景には、それぞれの時期に同社が重視した経営課題への対応の一端が反映されているのです。
まずは、九段北オフィスについて見てみましょう。このオフィスの特徴は、「選択式ワークスペース」と呼ばれる空間構成にありました。これは、個人の座席を固定せずに、「作業内容に応じて適切な場所を選んで働く」ための空間です。