文および図・写真=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表)
異なる現場間の情報交換を促す
通常、ビジネスのプロセスは複数の業務活動の連鎖によって成り立っており、それらの活動の現場はオフィスだけではありません。例えば、ある製品が店頭で販売されるまでに、その企画やデザインの担当者達は市場調査に出かけるでしょうし、設計や生産管理部門のスタッフ達は製造工場へも出かけるでしょう。出かけた先では、別の活動の担当者や市場の顧客との間で、多様な情報の収集や伝達が行われ、判断や意思決定のための材料が集められます。
では、そのように離れた現場同士における情報交換の効率・効果を高めるためには、どのような施策が可能でしょうか。おそらく、最も直接的な方法は、それぞれの現場を近づけ、つなぐことでしょう。一連のビジネス活動に関わる人々の現場をつなぎ、情報の共有と交換を促すために、オフィスはどのような役割を果たすことができるのか。今回は、その可能性について考えます。
顧客のいる現場を取り込んだオフィス
JR新橋駅から徒歩圏内のオフィス街の一画に建つオフィスビルの1階に、建物からはみ出すように白いフレームとガラスで組まれた箱があります。その中は「フルーゼ ハウン」のサインを掲げ、紅茶とスコーンやスイーツなどを提供するカフェです。(写真1-4)
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写真1:建物1階の前面歩道に面したカフェ。
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写真2:カフェはエントランスからエレベーターホールまで続く。
写真3-4:カフェの内観。
実は、このカフェは、同じ建物の3階に本社を構える乳製品メーカー、中沢フーズのアンテナショップです。業務用生クリームの製造・販売のトップブランドである同社が、2003年5月にこの建物に本社オフィスを移転した際に作った空間で、顧客との直接のやりとりを通して情報を収集する場です。同社はこの店を「顧客と出会うインターフェイス」と位置付けており、その運営にも社員自身がさまざまなかたちでかかわっています。オープンから8年間、主に営業と広告宣伝を担当する部門の管轄の下で、社員自らも店頭に立つなどして、多くの顧客との接点として活用されています。また、開発部門が運営企画を担当した1年間には、さまざまな試作中のメニューも店頭に並び、そこで得られた顧客の反応や開発担当スタッフ自ら感じたことが、以後の新製品開発にも大いに役立っているそうです。
さらに、3階に上がってエレベーターを降りると、オフィスのエントランス越しに目に入るのは、こちらも普通のオフィスには見られない「キッチンスタジオ」です。(写真5-6、次頁)ここでは、プロの料理研究家やパティシエを招いて、同社の乳製品の活用法を伝えたり、それらを使った料理教室を開いたり、といったさまざまなイベントが催され、そこで得られた反応は製品開発や営業活動にフィードバックされます。