文=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表) 写真提供=日本マイクロソフト株式会社
多様化する「つながり」のチャンネル
ビジネス環境がめまぐるしく変化を続け、つぎつぎと新たなビジネスモデルが生み出され、組織の流動化とワークスタイルの多様化が進む。そんな今日の状況にあっても、多くのビジネス活動の基本にあるのが「人と人のつながり」であることにはさほど変わりがないでしょう。
ただし、その「つながり方」については、ICT(情報通信技術、Information and Communication Technologyの略)がさまざまな新しい仕組みを提供しています。つながるためのチャンネルはオフィス空間からネットワークまで確実に拡がっています。
それでは、これからのビジネス活動において人々のつながりを支えるためには、これらのオンライン(on-line)とオンサイト(on-site)のチャンネルをどのように組み合わせ、活用することが効果的なのでしょうか。今回は、そんなテーマについて考えます。
オフィス統合で目指したもの
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図1:オフィス移転前後の空間配分の変化。(注1)
注1:日本マイクロソフト提供のデータをもとに筆者がグラフ化した。
2011年2月、マイクロソフト株式会社はそれまでの都内5拠点のオフィスを新本社オフィスに移転統合し、日本マイクロソフト株式会社として新たなスタートを切りました。新オフィスは品川駅前の高層ビルの36,800㎡の空間を占め、そこに約2,500名が勤務しています。そして、彼らのうち約60%はフリーアドレス、つまり特定の自席を持たずに働いています。
通常、「複数の大規模オフィスが都心に集約され、それを機にフリーアドレス制が導入された」と聞けば、多くの人が想像するのは、「スペースの効率的活用と総面積の削減」という結果でしょう。しかし、同社の統合前5拠点の合計フロア面積は約28,100㎡。つまり、新オフィスでは約30%も拡大されているわけです。それでは、大幅に増えたスペースには何が置かれどのように使われているのでしょうか。図1は移転前後のオフィス面積に占める各スペースの配分を示しています。これを見ると、新オフィスで拡大された面積の多くが、社内外のメンバーとの交流と協働の場に充てられたことが分かります。ここに、同社がこの新オフィスで目指したものの一端が見えてきます。以下では、それらについて具体的に見ていきましょう。
顧客とのつながりを支える環境
この新本社オフィスへの移転は、同社の日本法人設立25周年を契機に、社名変更と共に実施されました。そこには、「日本に根付き、信頼される企業」へと自らを変革していこうという意志が込められています。そのための方策の一環として、新オフィスには、顧客やビジネスパートナーを迎え入れるための空間が豊富に設けられています。建物最上部の2フロアをカスタマーフロアとし、同社の製品やサービスを実際に体感できるさまざまな空間が展開されています。
具体的には、上のフロアは信頼感を持てるビジネス空間のイメージとして、企業向けの製品やサービスを展開し(写真1-3)、下のフロアは楽しく活動的なイメージに仕上げて、一般消費者向けビジネスへの取り組みを見せています(写真4-6)。そして、それぞれのフロアには大小さまざまなサイズの会議室やセミナールームが多数設けてあり、多様な顧客やビジネスパートナーとの交流と協働を支えるための充実した環境となっています。
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写真1:ニューワークスタイルデモエリアでは、マイクロソフトのICTを
活用したワークスタイルが体感できる。 -
写真2:最新TV会議システムで海外の複数拠点と同時会議。
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写真3:セミナールームに併設されたホワイエでは飲食サービスを
提供し、パーティにも対応できる。 -
写真4:商材の展示エリアを併設した受付・待合エリア。
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写真5:ゲーム機など最新の商品を体験できるシーン展示エリア。
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写真6:来訪者との交流の場となるカフェエリア。
自身が働くオフィスの中に、いつでも顧客を迎え入れることができ、自分たちの製品やビジネスを共に体験してもらえる環境を充実させる。そうすることで、機を逃さずに顧客との対話の場を持ち、市場と顧客を身近に感じながら働く。オフィスはそうした顧客視点を意識したビジネス活動の場としても大きな潜在力を持っています。日本マイクロソフトにとっても、以前の分散したオフィスでは、こうした多様な環境をすべてのオフィスで充実させることは難しいことでした。このたびの統合移転は、顔の見える企業としていっそう日本社会に根付いた存在を志向する同社にとって、そのための施策を打ち出す重要な機会だったのです。