文および図・写真=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表)
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写真5:エレベーターホールからオフィスエントランスを見る。
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写真6:洋菓子教室が開かれているキッチンスタジオ。
オープン以来、毎月開催されている洋菓子教室は、この8年間一度も途切れることなく続いています。また、ここでは1階のアンテナショップで出されるスコーンやデザートを毎日焼くほかに、同社スタッフによる新製品の試作や社内試食会、あるいは、商品の品質チェックや、自社製品が使われた料理や菓子を実際に食べながらの社内勉強会などが開かれています。その他にも、例えばハロウィーンの季節には、この場を飾り付けて、さまざまなメニューをレシピなどの解説と共に展示し、終日開放して誰でも訪れてもらえるようなイベントを開くなど、料理や菓子を通じて、さまざまな顧客と接することのできる場として活用されています。
これら二つの施設の規模は、本社オフィス全体の延べ面積624m²の内、1階のカフェが61m²、3階のキッチンスタジオが103m²です。それぞれが高い割合を占めていることからも、このオフィスの空間構成のユニークさが想像できるでしょう。さらに、木質系の内装材や光の柔らかい間接照明器具を採用するなど、顧客の目に触れない執務エリアも含めて、オフィス全体がナチュラルな雰囲気で品位のある空間としてデザインされており、常にクオリティを重視する同社の姿勢が、そこで日々働く社員に対しても暗黙的に伝わる環境となっています。(写真7-8)こうしたインテリアの質の高さは、同オフィスが2004年度の第17回日経ニューオフィス賞のニューオフィス推進賞を受賞し、受賞事例中の最高賞としての経済産業大臣賞も併せて受賞したことにも表れています。
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写真7:木質系フローリングのナチュラルな雰囲気の執務エリア。
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写真8:窓際のコミュニケーション・ライブラリー。
移転から8年を経た今も変わらずに活用されているこれらの施設を訪れる顧客の中には、顔なじみのリピーターも増えてきているそうです。そして、イベントの合間にそうした人たちと交わす何気ない会話は、その場を共有するスタッフ達にとって、自分たちの顧客像を実感することのできる貴重な機会になっているということです。
そもそも、同社のような業務用製品のメーカーにとっては、シェフやパティシエのような中間段階の顧客との接点はあっても、最終顧客である一般消費者との接点は少ないのが普通でしょう。また、そうした製品が実際に使われる現場に赴いて調査しようとしても、それらはオフィスから離れた場所に分散していることが多いでしょう。そのような問題の解決策として、中沢フーズの本社オフィスに設けられた二つの施設は、継続的に顧客と接することのできる場を身近に作り出すことで、離れていて実感しにくい現場をつなぐためのチャネルとして機能しているわけです。