WORKSCAPE INNOVATION

働く風景を変えていくジャーナル。それが「WORKSCAPE INNOVATION」です。次世代オフィスのコンセプトの開発・研究に長年携わってこられた岸本章弘氏がお届けします。

No.09 離れた「現場」とつながるオフィス 2011.10.12 up

文および図・写真=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表)

現場をつなぐ仕組みづくり

「現場をつなぐ」ということは、さまざまな業務活動の連鎖からなるビジネスプロセスを構成する業務・場所・人の関係において、どれとどれをどのようにつなぐかを問われる課題です。

  • 図1:ビジネスプロセスにおける連鎖のイメージ。それぞれの活動を支える業務・場所・人をどうつなぐかが課題になる。

    図1:ビジネスプロセスにおける連鎖のイメージ。それぞれの活動を支える業務・場所・人をどうつなぐかが課題になる。

具体的な解決策としては、さまざまな方策が考えられます。ハード的なアプローチをとるなら、双方の現場を物理的に近づけて配置することで移動時間を短縮しながら情報交換の頻度を高めたり、離れた現場をネットワーク経由で可視化して情報にアクセスしやすくしたり、といった方法が考えられます。ソフト的なアプローチとしては、日々の協働作業や人的交流を通じてコミュニケーションの基盤となる知識や経験の共有を促し、風通しの良い組織風土の醸成を支えるような、場と運用の仕組みを導入することも有効です。

つなぎたい現場がどちらもオフィス内にある場合、その解決策は比較的容易でしょう。見通しのいい大規模空間に部門を同居させたり、共有のマグネットスペースを充実させたりして、部門間のインフォーマルコミュニケーションを促すなど、これまでにも多くの事例において同様の方策が実施されています。

しかし、オフィス以外の現場とオフィスをつなぐためには、それぞれの条件に応じて、より独自の方策が必要になります。製品を生産する工場や、商品を販売する店頭は、通常はオフィスとは離れた現場にあります。そして、そこで生み出される情報は、品質管理や市場ニーズの把握につながり、的確な判断や迅速な意思決定には不可欠な情報です。そこでは、つなぐべき対象を特定し、それぞれの特性や状況に応じて仕組みを構築する必要があります。

先に紹介した事例では、中沢フーズの場合は、姿の見えにくい顧客を集めて対面できる場を身近に作り出し、さまざまなイベントを通して継続的な発信とフィードバックのチャネルを構築しています。パソナの場合は、将来ビジネスのプロトタイプの開発と検証の場を共有空間の中に置いたことによって、形式化しにくいイメージや体験をさまざまな関係者が共有できる仕組みが機能し始めていると言えるでしょう。

もちろん、これらの事例のように、必ずしもすべての仕組みを自前で作る必要はありません。一時的なイベントのような場が必要であれば、身近な街の施設やサービスを積極的に活用する方が効率的でしょうし、その運営もプロに任せる方が効果的な場合もあります。より頻度が高く継続的なニーズがある場合には、そのための設備やサービスが充実した環境や立地を選び、自らのオフィスを近づける方が有利な場合もあるでしょう。オフィス以外の現場をつなぐためには、その立地から施設構成まで、一般的なオフィスの範囲にとどまらない検討が必要なのです。

例えば、多様な現場との間で知識や情報を共有し、連携と協働の精度を上げ、ビジネスのスピードアップを図る。あるいは、新たなビジネスの可能性をプロトタイピングして公開し、想定される顧客の反応を体感してみる。そんな情報の交換と共有の方法としては、すでに存在する離れた現場を可視化することから、まだ存在しない現場をシミュレーションすることまで、それぞれのビジネスの課題に応じた多様なアプローチの可能性があります。そうした試みを柔軟な発想で受け入れながらデザインするとき、オフィス空間はさまざまな現場とつながることができるのです。

岸本 章弘

著者プロフィール

岸本章弘 (きしもと あきひろ)
ワークスケープ・ラボ代表

オフィス家具メーカーにてオフィス等のデザイン、先進動向調査、次世代オフィスコンセプトやプロトタイプデザインの開発に携わり、研究情報誌『ECIFFO』の編集長をつとめた後、独立。ワークプレイスの研究とデザインの分野でコンサルティング活動を行っている。千葉工業大学、京都工芸繊維大学非常勤講師等を歴任。
『NEW WORKSCAPE 仕事を変えるオフィスのデザイン』(弘文堂)、
『POST-OFFICE ワークスペース改造計画』(TOTO出版、共著)。

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