WORKSCAPE INNOVATION

働く風景を変えていくジャーナル。それが「WORKSCAPE INNOVATION」です。次世代オフィスのコンセプトの開発・研究に長年携わってこられた岸本章弘氏がお届けします。

No.10 働き方の変革を促すオフィス構築のプロセス 2011.10.31 up!

文と図=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表) 写真提供:株式会社コーセー

  • 写真11:コンセントレーションコーナー。

    写真11:コンセントレーションコーナー。

行動変革を支えるオフィスデザインのプロセス

「実際に行動が変わってきて初めて、『以前はこうだった』と認識したことも多い」。移転から今日までの変化をあらためて振り返って見たとき、新オフィスづくりのプロジェクトチームの中心で活動してきたメンバーの一人は、そんな感想を語ってくれました。

実は、企業組織で働く多くのオフィスワーカーにとって、自分たちの行動のスタイルがどのようなものであるか、ということを客観的に認識することはそれほど簡単ではありません。それらは、それぞれの組織文化の一部であり、その中に属する人々にとっては、日常的にほとんど意識されないものだからです。時を経て違いが見えてきたとき、あるいは異なる場に置かれてその差異を目の当たりにしたとき、ようやくそれまでの行動や思考のあり方、そしてそれらの背景や規範となっていたものの存在に気付かされます。

そのような日々の積み重ねによって形成されるワークスタイルを変革するためには、古いスタイルの問題を認識し、それをもたらしている背景を特定したうえで、新たな行動プログラムと支援環境を構築し、そこで生まれる新しい行動の繰り返しから定着までを支える仕組みと時間が必要になります。したがって、そのためのオフィス計画においても、かつてのような「人数と席数に基づく所要面積の算定」といった作業に代表されるような機械的な手法やプロセスにとどまらず、意識や文化といった定性的な要因も扱う包括的なアプローチが必要になるでしょう。

同時に、オフィスづくりのプロセスを担う体制においても従来と異なる多様なアプローチが考えられます。例えば、一般的な総務部やFM部門に代わって、経営戦略や人事戦略を担う部署が中心的役割を担いながらオフィスづくりの方向性や要件の企画を進め、それらの実現をFM部門や情報システム部門が内部コンサルタントの立場で支援する、といった組合せも有効でしょう。

今回のコーセーの事例では、先にも触れたように、ブランドデザインのチームがコンセプト構築をサポートし、経営層から現場の社員まで、多様なメンバーの参画を得ながら、自らの行動変革と支援環境のあり方をワークショップ活動によって定義し、同時にそれらを共有するというプロセスが採られていました。グループとしてのオフィスワーカーの意識と行動に働きかけ、組織の内部に向けたブランド構築を支える環境としてオフィスをデザインしたわけです。

働き方の変革を促すオフィスづくりとは、オフィス空間の課題ではなく、オフィスワーカーの行動の課題です。それは、人事や経営戦略といった経営の基本的課題のひとつということです。そして、空間はそれらの課題解決のための資源あるいは手段です。したがって、その構築プロセスは、経営の視点に立って組織行動の課題を定義した上で、その変革の目標を提示することから始まるべきです。その上で、提示された目標に向けて求められる行動を特定し、それらを触発し支援する空間の要件を抽出し、空間デザインに反映させる必要があります。そして、そのためのアプローチには、伝統的な空間設計の枠組みを超えて、多くの分野の知見や手法を活用することが可能です。そうすることで、オフィスはより効果的に人々の意識と行動に働きかけることができるものとなり、その変革を支援してくれるでしょう。

岸本 章弘

著者プロフィール

岸本章弘 (きしもと あきひろ)
ワークスケープ・ラボ代表

オフィス家具メーカーにてオフィス等のデザイン、先進動向調査、次世代オフィスコンセプトやプロトタイプデザインの開発に携わり、研究情報誌『ECIFFO』の編集長をつとめた後、独立。ワークプレイスの研究とデザインの分野でコンサルティング活動を行っている。千葉工業大学、京都工芸繊維大学非常勤講師等を歴任。
『NEW WORKSCAPE 仕事を変えるオフィスのデザイン』(弘文堂)、
『POST-OFFICE ワークスペース改造計画』(TOTO出版、共著)。

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