WORKSCAPE INNOVATION

働く風景を変えていくジャーナル。それが「WORKSCAPE INNOVATION」です。次世代オフィスのコンセプトの開発・研究に長年携わってこられた岸本章弘氏がお届けします。

No.10 働き方の変革を促すオフィス構築のプロセス 2011.10.31 up!

文と図=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表) 写真提供:株式会社コーセー

次のステップは、新オフィスに求められる空間の与件を抽出すること、そして場のイメージを決定することでした。各部門から集まったメンバーが、さまざまなゾーンにおける具体的な活動シーンを想定しながらディスカッションを繰り返し、先に設定した「交わる」「共創する」「育む」というアクションを促す空間のあり方を、「見せる・魅せる」、「人と情報が行き交う」、「モノと触れ合える」、「感性が刺激される」の4つのキーワードとして定義しました。その上で、さらにそうした行為や状況が生まれる空間や場にふさわしいイメージについてディスカッションを進めた結果、「活気がある」、「モノが中心」、「五感が刺激される」、「どこかなつかしい」など、15のイメージワードが抽出されました。

以上のような一連のプロセスを経て、先に定義したキーワードとイメージワードを象徴的に統合するコンセプトとして辿り着いたのが、「マルシェ」でした。フランス語で「市場」を意味するこの言葉に込められたのは、色とりどりの新鮮な果物が並ぶ市場のように、人・モノ・情報が行き交う開放的で活気あふれるオフィス空間を目指そうという思いです。コンセプトが決まった後は、建築計画過程でリストアップされていた機能や設備の計画とすり合わせながら、具体的な空間のデザイン要件に落とし込む作業が行われました。

こうしてまとめられた空間の機能とイメージに関する要件は、次のステップでデザイナーに引き継がれ、その結果としてできあがったのが、マルシェ・コンセプトを実現する多彩な空間です。(写真1-6)

  • 写真1:「見せる・魅せる」を意識した、開放的で視認性の高い空間 。

    写真1:「見せる・魅せる」を意識した、開放的で視認性の高い空間 。

  • 写真2:各フロアの中心に位置し、「人と情報が行き交う」場となるコラボレーションスペース。

    写真2:各フロアの中心に位置し、
    「人と情報が行き交う」場となるコラボレーションスペース。

  • 写真3:「モノと触れ合える」ためのテスティングエリアでは、全社員が自社および他社の商品を試用できる。

    写真3:「モノと触れ合える」ためのテスティングエリアでは、
    全社員が自社および他社の商品を試用できる。

  • 写真4:最新の商品を見て触れられるインフォメーションコーナー

    写真4:最新の商品を見て触れられるインフォメーションコーナー。

  • 写真5:ライブラリーカフェ
  • 写真6:カジュアルコミュニケーションスペース
  • 写真5-6:「感性が刺激される」場として、集中からリラックスまで多様なモードに応じて使い分けられる
    ライブラリーカフェ(左)とカジュアルコミュニケーションスペース(右)。

ちなみに、ここに紹介した一連のコンセプト構築のプロセスを計画し、ワークショップをリードしていたのは、広告代理店でブランドデザインを担当するチームでした。そのプロセスは、オフィス空間を、そこで働く社員の意識と行動に働きかけ、経験の積み重ねを通じて理念や価値観の浸透と共有を促す場と捉え、そこにふさわしいデザインの方向性を見つけだそうとするものです。これは、企業組織の内側に向けたブランディング媒体としてオフィスをデザインするアプローチと言えるでしょう。

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