文および図・写真=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表)
多様な選択肢のある空間へ
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写真2:デスクそばのテーブルスペース
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写真3:標準的なデスクスペース
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写真4:集中作業のための共用個室
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写真5:小規模な会議室
それでは実際のオフィスはどんなふうにつくればいいのでしょうか。
一例を挙げましょう。写真2~5は、90年代半ばのアメリカのコンサルティング会社のサービス部門のオフィスです。
このオフィスのデザインの方針は、「あなたのオフィスはあなたが誰かではなく、何をするかに基づいてつくられるべき」というものでした。
そこでは、出張の多いマネージャーはフリーアドレスで専用席を持たず、その部下の経理担当者には書類が多く集中作業が必要なので個室を与え、外出や席外しの多いトップマネジメントの個室は廃止して秘書と同サイズのデスクになりました。一方で、打合せや一時的な集中作業なども臨機応変にできるように、大小さまざまな会議室や、デスクスペースのそばのテーブルスペースをオフィス全体に分散配置し、まさに何をするかによって適切な場所が身近に選べるような空間構成としました。それでも、結果的には1,000人を越える規模のオフィス全体で30%の面積を削減しています。
オフィスワーカーと空間の関係を固定する大きな理由であった電話や書類が電子化され携帯できるようになった今、オフィス空間は人の数ではなく、そこでの臨機応変な活動に応じてデザインされるべきです。職種によって働き方が違うなら、全員が同じ個人席を持つ必要はありません。集中作業のためにプライバシーが必要なら、個室に閉じこもるだけでなく、オフィスを離れる方法もあります。増加するグループワークを支えるためには、もっとテーブルスペースが必要です。そして、日常の臨機応変なコミュニケーションには、フォーマルな会議室だけでなく、カジュアルなカフェなども活用できます。
オフィスワーカーの働き方の変化は確実に進んでいます。ただし、その変化の方向や速さは一様ではありません。職種や仕事内容によって、あるいは部署や企業によって、さらには業種・業界によっても異なります。そうした状況全体を一言で形容しようとすると「多様化」という聞き慣れた表現になってしまいますが、まさにそうなのです。そうした状況の下で、それぞれの組織の特性に応じて自分たちの働き方を見直し、それらに合った多様な選択肢を提供できるオフィスを考えるときがやってきています。
著者プロフィール
岸本章弘 (きしもと あきひろ)
ワークスケープ・ラボ代表
オフィス家具メーカーにてオフィス等のデザイン、先進動向調査、次世代オフィスコンセプトやプロトタイプデザインの開発に携わり、研究情報誌『ECIFFO』の編集長をつとめた後、独立。ワークプレイスの研究とデザインの分野でコンサルティング活動を行っている。千葉工業大学、京都工芸繊維大学非常勤講師等を歴任。
『NEW WORKSCAPE 仕事を変えるオフィスのデザイン』(弘文堂)、
『POST-OFFICE ワークスペース改造計画』(TOTO出版、共著)。