WORKSCAPE INNOVATION

働く風景を変えていくジャーナル。それが「WORKSCAPE INNOVATION」です。次世代オフィスのコンセプトの開発・研究に長年携わってこられた岸本章弘氏がお届けします。

No.04 多様化するオフィス・ソリューション 2011.06.06 up

文および図・写真=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表)

個人作業環境の標準化

  • 図1:PCの利用が進めば、仕事が違っても、そのための環境は似てくる。

    図1:PCの利用が進めば、仕事が違っても、そのための環境は似てくる。

  • 写真2:フラットな組織への変革を目指して導入されたユニバーサル・プランのオフィス

    写真2:フラットな組織への変革を目指して導入され
    たユニバーサル・プランのオフィス

新しいオフィスの解決策の実現において、もっとも重要な役割を果たしているのはIT(情報技術)でしょう。仕事の情報と道具を電子化することによって、空間の形から人々の働き方まで、さまざまな面でオフィスの柔軟性の向上に貢献しています。

その一つは、それまでは職種や作業によって異なっていた道具や環境の標準化を可能にしたことです。IT導入以前のオフィスでは、例えば経理担当者は帳簿と電卓を使い、設計者は製図板と図面に向かっていました。当然、必要な机上面の広さや収納家具の仕様は違っていました。しかし、そうしたさまざまな仕事で扱われる情報は電子化され、専門の道具もソフトウェアとしてPCの中に入っています。つまり、誰もがPC操作を中心にオフィスワークをこなしているわけですから、そのための作業環境のニーズもまた共通になってきます。(図1)あとは、「管理職のデスクは平社員のそれより大きく」といったような、組織の階層を形に表すことをやめれば、個人席の形やサイズについて標準化が容易になります。

こうした個人席を同じにして標準化する形式は「ユニバーサル・プラン」などと呼ばれています。組織変更の際などにレイアウトは変えずに人だけ動けばよいので迅速に対応できるし、管理する側にとっても管理対象の種類が少なくて効率的です。また、職種や地位の違いを超えて平等性を高めるといったイメージ面での効果にもつながるので、フラットでオープンな組織文化への変革を象徴的に支援する方策としても、積極的に活用されるようになっています。(写真2)

適業適所のセッティング

図2:作業に応じて選択可能な用途別空間への移行のイメージ

図2:作業に応じて選択可能な用途別空間への移行のイメージ

今日のオフィスでは、従来はオフィスワークの多くを占めていた情報処理型の個人作業(つまりデスクワーク)が減る一方で、より高度で専門的な熟考・集中型の個人作業や対話・協働型のグループ作業が増えています。そうしたニーズの変化に応じて考え出されたのが、「アクティビティ・セッティング」と呼ばれるコンセプトでした。これは、オフィス内でのさまざまな活動(アクティビティ)に応じて、それぞれに適した機能空間(セッティング)を混在配置させようという考え方です。それまでのように個人席をあらゆる作業のための万能空間として扱うことをやめ、デスクワークのためのセッティング、ミーティングのためのセッティング、といった用途別空間を用意し、作業に応じて適した場所を都度選んで使い分けることができる形態のオフィスを指しています。(図2)

  • 写真3:個人書類などの入ったワゴンを移動させて空いている席を使うノンテリトリアル・オフィス。

    写真3:個人書類などの入ったワゴンを移動させて空いている席を使うノンテリトリアル・オフィス。

  • 写真4:ホテリング形式で運用されている個室を使っているようす。

    写真4:ホテリング形式で運用されている個室を使っているようす。

こうしたアクティビティ・セッティングの形式を、先に挙げたような個人席を標準化したオフィスに導入すれば、部署によっては多くの人が自席以外のセッティングで過ごす時間が増えるでしょう。そうなると、そもそも共通仕様の個人席を各人の専用席として提供する必要性が低くなります。

そんな状況の下で、特にセールスやコンサルタントなど外出の多い職種を対象に、「ノンテリトリアル・オフィス」すなわち「テリトリーの無い」オフィスが普及し始めました。そこでは個人の書類や道具を収納した最小限のキャビネット以外は、殆どのセッティングが共有化されることになっていました。常に全員がオフィスにいるわけではないのですから、共有を前提にすれば個人席や個室の数量は減らすことができます。そのことによって空いたスペースには多様な用途別のセッティングを設置することができます。こうして、ノンテリトリアル型のオフィス空間は、多様な機能の向上と全体面積の削減を両立させることのできる有効な解決策の一つと考えられるようになり、特にコンサルティング会社などでは広く普及しています。(写真3)(注)

また、こうした共有型オフィスを効率よく運用するために、仕事の内容やスケジュールに応じて、あらかじめ必要な空間やサービスを必要な期間だけ予約しておくホテルのような運用方式、「ホテリング」も一部のオフィスでは導入されています。(写真4)その日の仕事にあわせて空間やサービスを事前に予約し、オフィスに来たら「チェックイン」してその空間を期間限定で占有するわけです。

注:ちなみに、日本では「フリーアドレス」というネーミングもよく聞きますが、これは主に外出の多い営業部門などで自席の共有によって全体面積を削減する手法として、ITの普及以前から見られたものです。もともとの動機には違いがありますが、今日ではノンテリトリアルと同義と考えても問題はないでしょう。米国でも、初期の頃には「ホット・デスク」や「ジャスト・イン・タイム」といった名称を付けた事例もありましたが、最近はノンテリトリアルが多いようです。

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