文および写真=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表)
求められる人材の変化
文献2:
「ポスト資本主義社会 21世紀の組織と人間はどう変わるか」、
P.F.ドラッカー著、
上田惇生ほか訳、
ダイヤモンド社、1993
企業のビジネス活動の基本は、さまざまな資源から価値を創り出すことにありますが、その価値創造の中心が、モノを生み出す場所(工場)から、アイデアや知識を生み出す場所(オフィス)へと移行していることはしばしば指摘されています。「ナレッジワーカー」という言葉を最初に使ったのはピーター・ドラッカーですが、著書の中で次のように言っています。
「基本的な経済資源、すなわち経済用語で言うところの『生産手段』は、もはや、資本でも、天然資源でも『労働』でもない。それは知識となる。・・・(中略)・・・そして知識社会における最も重要な社会勢力は、『知識労働者』となる。・・・」(文献2参照)
実際、今日の産業構造がソフト化・サービス化へと移ってきていることは疑いようがありません。情報技術の進歩によって定型的な作業がコンピュータに取って代わられ、オフィスワークにはより高度な知的技能と独創的な発想が求められていることも、多くの人々の実感するところでしょう。そして、そうした仕事を担う中核となる人材がナレッジワーカーなのです。
これもドラッカーが指摘していますが、企業にとって重要な経営資源でありイノベーションの源泉となる「知識」を所有するのもナレッジワーカーです。企業は、知識をワーカー達から切り離して金融資本や生産設備のように所有することは、ほとんどできません。そして、先に述べたように、人材の流動化は社会の趨勢です。したがって、求められるナレッジワーカーをいかにして確保するかということは、多くの企業にとって重要な経営課題の一つになるはずです。
多様な人材を支援する
写真1、2:椅子と机の適正な高さは、体格によって異なる。
それでは、変化し続ける組織の中で多様化し流動化する人材の確保のために、オフィスはどのような貢献ができるでしょうか?
まずは、素直に考えてみてください。人材が多様化すれば、当然ながらオフィス空間のニーズの基になる条件も多様化します。代表的なものとしては、個人の体格や生理的な違い、職種によって異なる仕事のスタイル、さらには仕事にまつわる各人の価値観などが挙げられるでしょう。そして、オフィスには、こうした多様な条件に対して、柔軟に適応できる仕組みや多彩な選択肢を提供することが求められるでしょう。
例えば、オフィスの中にはスポーツの世界のような身長制限や体重の階級などはありません。だから、小柄な人も大柄な人も同じ場所で働きます。写真1はスウェーデンの証券取引会社、写真2はオランダの保険会社のオフィスで見かけた光景ですが、椅子と机の高さが調節できると、これだけ違いが出るという例です。でも、日本の会社のオフィスでは椅子の高さは調節できても、机の高さはだいたい同じです。もし、こんなふうに各人が自分に合った高さに調節できるようなデスクが導入されれば、肩こりに悩む女性が尐しは減るのではないかと思うのは筆者だけでしょうか。
職種や仕事の内容によって適切な支援環境や道具が異なるという点については、前回のコラムで触れたのでここでは省略します。(第1回「働き方の変化がもたらす行動と空間のミスマッチ」参照)