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オフィスのレイアウトや空間デザインは、そこで働く社員たちの満足度や業務効率に大きな影響をもたらします。それゆえさまざまな工夫を凝らした空間デザインを導入する企業が増え、オフィスレイアウトは多種多様となってきました。
今回は、自社に合うオフィスレイアウトを検討するために役立つ、配置のヒントや最新情報を紹介します。
オフィスレイアウトを組む際に、まず考えるべきこと
オフィスレイアウトを検討するにあたって、具体的な配置などを組む前に、まずいくつか考えておくべきことがあります。
- ゾーニング
- セキュリティ対策
- 動線
- 通路幅の設定
- デスク選び
- 配線・電源
- 安全面
ゾーニング
ゾーニングとは、建物内の空間を効果的にグランドデザインすることです。オフィスの場合であれば以下のようなスペースを、それぞれどこに配置すれば機能的で業務効率が上がるかなどを考えます。
- エントランス
- 業務スペース
- ミーティングスペース
- 応接室
- 情報管理スペース(サーバー室、重要資料保管室など)
- 共用備品用スペース
セキュリティ対策
ゾーニングの一環として、セキュリティ面にも配慮が欠かせません。具体的には、各スペースに対しセキュリティレベルを設定します。セキュリティレベルは以下のように3段階程度設定するのがおすすめです。
情報管理スペースなどは最高のセキュリティレベルとし、鍵付きで限られた人物しか入れないようにします。その逆に、外部の人間も入れるエントランスや応接室などは、外部の方の往来が多いエントランスや応接室などは低いセキュリティレベルが妥当でしょう
動線
社員や来客者の動線も考えておきましょう。具体的には、以下を検討します。
- 社員それぞれがスムーズにエントランスから業務スペースに移動できるか?
- 移動中の対面頻度はどうか?(混雑しないか)
- 複数人が集まる可能性が高いスペース(ミーティングスペース、共有備品用スペースなど)にゆとりがあるか?
通路幅の設定
動線と合わせて、通路幅も決めておけると良いでしょう。一般にいわれている適切な通路幅やオフィスデスク間隔は以下になります。
- メイン通路 120~160cm(すれ違いのしやすさを想定)
- 座席と座席の間 160~180cm(背中合わせの場合)
- 会議室テーブルの座席側と壁との距離 80~120cm
デスク選び
通路幅を決める時には、配置するデスクの大きさも見ておく必要があります。
現在販売されているオフィスデスクの一般的なサイズ感を、一例としてまとめてみました。
- 幅120~140cm・奥行60~70cm:事務系スタッフ向け、大型ノートPCの使用を想定
- 幅100cm~・奥行60~70cm:営業系スタッフ向け、小型ノートPCの使用と外出が多いことを想定
- 幅160cm~・奥行70~80cm:技術系スタッフ向け、デスクトップPCの使用や資料やサンプルを並べられる広さを想定
配線・電源
電話やLANケーブルの配線、電源の位置や数も重要です。足りなかったり届かなくて使えなかったりなどのトラブルを避けるためにも、設計時にしっかり確認しておきましょう。
安全面
ほか災害などに備えて、安全に配慮したレイアウトを取り入れましょう。たとえば、下記のような策が当てはまります。
- 避難経路の設定
- パーテーションや背の高い家具への転倒防止措置
- 防災用品の備蓄
- 労働安全衛生法、消防法、建築基準法などの法令に沿ったレイアウトや設備の設置
基本のデスク・空間配置一覧
ゾーニングや動線、通路幅やデスクなどの前提部分が決まったら、具体的なデスク配置について考えていきます。
- 対向式(対向島式、島式)レイアウト
- 背面式(背面対向式)レイアウト
- ブース式レイアウト
- クロス式(ジグザグ式)レイアウト
- ブーメラン式レイアウト
- クラスター式レイアウト
従来導入されていた対向式の配置に対し、ブース式やクロス式、ブーメラン式は、昨今の多様な働き方やコミュニケーション重視の空間づくりなどトレンドをおさえる形のレイアウトといえます。
特に最近ではひとつの配置を採用するのではなく、さまざまな働き方・過ごし方に合わせていくつかのデスクレイアウトを採用する企業が多いです。
対向式(対向島式、島式)レイアウト
部署やチームごとにオフィスデスクを向かい合わせで設置するレイアウトです。省スペースで部署内のコミュニケーションが取りやすいことから、これまで広く用いられてきました。ただし、正面の同僚と視線が合いやすいことで業務に集中しにくい上、他部署とコミュニケーションロスになりやすいです。
背面式(背面対向式)レイアウト
部署やチームメンバーが背中合わせになるレイアウト。目の前は壁またはパーテーションとなり、正面に人がいないため業務に集中しやすく、また振り返ればすぐにコミュニケーションがとれます。
ただし対向式レイアウトよりさらに、他部署とのコミュニケーションロスが進みやすいです。
ブース式レイアウト
オフィスデスクをパーテーションで囲い、個人ブースのような業務環境とするオフィスレイアウトです。多様な働き方が注目される今、集中して業務を行いたいスタッフ用としてオフィスの一部に設置するのがトレンドになっています。
クロス式(ジグザグ式)レイアウト
対向式レイアウトで組んだ各島を、クロスするように配置するオフィスレイアウトです。導線がジグザグになり固定化されないため、コミュニケーションが生まれやすくなります。
しかし人の行き来も増えやすく業務に集中しにくいため、集中しやすいブース式や背面式と組み合わせて空間配置できると、社員が働きやすさを感じられるはずです。
ブーメラン式レイアウト
ブーメランのような形状の逆V字型で6角形のオフィスデスク3つを、向かい合わせて1つの島とするオフィスレイアウトです。パーテーションを設ければプライバシーを確保したゆとりのある作業スペースとして使え、パーテーションを外せばコミュニケーションが捗ります。
スペースを広く使うため、「フリーアドレスエリア」としてオフィス空間の一部にだけ設けてみても良いでしょう。
クラスター式レイアウト
このオフィスレイアウトには2パターンがあります。
- オフィスデスクを正面から1デスク分ずらして向かい合わせるレイアウト
- パーテーションを側面にして、デスク1台ずつを同方向に向けて配列。パーテーションの反対側のデスクは反対方向に向けて並べるレイアウト
ある程度のプライバシーを確保しながらもコミュニケーションが取りやすく、スペースの有効活用ができる配置です。
オフィスレイアウトのトレンド
オフィスレイアウトのトレンドとして、以下が注目されています。
- バイオフィリックデザイン
- コミュニケーション重視の「ヒト起点」なオフィスデザイン
- ABWを意識したワークスペース設計
バイオフィリックデザイン
オフィスに緑を取り入れることは以前から進められてきましたが、バイオフィリックデザインはそれをさらに1歩、押し進めたものです。植物を置くだけでなく、自然界にある音や香りも取り込んだ、五感で自然を感じられるデザインが特徴。具体的には社員の目の届く範囲に植物やアートを配置したり、アロマを炊いたり、川のせせらぎといった自然音を流したりします。社員のストレス削減につながり、生産性の向上が期待できるのだとか。
GoogleやAmazonなどで大規模なバイオフィリックデザインのオフィス空間が話題となり、国内外ともに導入が増加中。
空間デザイン事業を展開する株式会社パーク・コーポレーションの ブランド・parkERsでは、ブランドコンセプトである“公園”をテーマ にしたオフィス移転を行っています。デザインのコンセプトを「 “未来の公園”を体感できるワークプレイス 」とし、水盤の設置や植物の育成など実験的な要素をオフィス空間に散りばめているのだとか。
レイアウトに関しては基本フリーアドレスを採用。「脚のない吊り型デスク」や「窓際にブランコを設置」「複数人が集まれる杉の丸太」など、デザインコンセプトを重視した、自然を深く感じられるデスク配置や空間づくりがなされています。
コミュニケーション重視の「ヒト起点」なオフィスレイアウト
コロナをきっかけにオフィスのあり方が変わり、オフィス起点でなくヒト起点での空間づくりがトレンドとなっています。具体的にはコミュニケーションが取りやすくなるブースの導入、開放感を重視した空間設計を導入する企業が増えてきています。
たとえば電通デジタルでは「Performance Based Working」をテーマに、リアルなコミュニケーションを促進するオフィス空間へとリニューアルを図りました。同社はオフィスを「言語化しにくい情報を共有する場」と捉えており、その象徴としてフロアのあらゆるところにホワイトボードを設置。メンバー間でのクリアな意思疎通が行えるレイアウトアイデアを取り入れています。
また社員同士の新たな交流を生む「街」と「道」の考え方も特徴的。フロア全体を街と捉え、そこに移動経路=道をデザイン。道のあちこちには「交差点」が形成され、自然と人同士が出会えるような空間設計を意識して造りました。
これらアイデアの根底にあるのは「オフィスレイアウトは経営戦略のひとつである」ということ。ただ空間をつくるのではなく「社員がどうオフィスを使うか」や「レイアウトによってどう社員のパフォーマンスに影響するか」など、企業成長を達成するための施策としてレイアウトを設計しています。
ABWを意識したワークスペース設計
1フロアで画一的なデスク配置を行うのではなく、さまざまなワークスペースを設置し「その日の気分や業務内容に合わせて自由に働き方を選べる」ABW式の空間づくりも近年増えています。
東京建物では、オフィスの7階フロア全体に、ABWを意識したレイアウトを採用。具体的には以下のようなゾーンなどを配置し、同じフロアの中で社員たちが自由なワークスタイルを確立できるような空間設計がなされています。
- アトリエゾーン:技術系メンバーの利用を想定し、想像力をかき立てるレイアウトを採用。作業に集中できるのはもちろん、棚にさまざまな資料を配置し情報探索ができるように設計。
- コミュニティスペース:ゴミ箱やコーヒーマシン、共有文具を一か所にまとめたエリア。ほかの社員と交流しやすく、コミュニケーションが自然と生まれる設計。
- スカンディアモス(天然苔)エリア:壁面に天然苔(スカンディアモス)を配置したスペース。緑を感じられ、リラックスしながらの業務が可能。オープンな人が集まる場として設計。
これらオフィスレイアウトの採用・運用にあたり、試行錯誤を重ねているのもポイント。
たとえばデザイン目線で導入したソファー座席は、実際作業がしにくくワークスペースとして不向きだった一方、休憩スペースとして向いていることが分かりました。
実際に導入運用してみて、使いやすさや快適性を判断し改善を図ることで、さらに働きやすいオフィスレイアウトをつくっていっている「現在進行形」な点が特徴的です。
まとめ
最適なオフィスレイアウトは、各社の状況によって異なるものです。自社の業態や社員数、勤務形態、オフィス面積、予算などを見ながら、レイアウトを落とし込んでいく必要があります。そのためには、さまざまな角度からの情報収集が欠かせません。
たとえば、ABW式レイアウトを採用する東京建物などではオフィス見学も可能です。トレンドにも触れることで自社に適するオフィスデザインを実現できるでしょう。
参考資料
空間デザインブランド parkERs(パーカーズ)新しいオフィスをデザイン。ブランドコンセプトである“公園”をテーマに、自らのワークプレイスで様々な研究実験を開始しましたhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000066.000007230.html
「日経ニューオフィス賞」において「経済産業大臣賞」を受賞https://www.dentsudigital.co.jp/news/release/prizes/2022-0810-000034