目次

オフィスでの働きやすさにおいては、社員の心に働きかける「心理学」の観点から、オフィスデザインを再考するのも手法のひとつです。ここでは心理的な要素を踏まえた、オフィスデザインの工夫や考え方について述べていきます。

科学的な観点から見る、オフィス環境と「働きやすさ」の深い関係

心理学的知見に基づきデザインされたオフィス環境は、社員のモチベーションや社員同士のコミュニケーション、エンゲージメントに深く影響することが科学的に証明されてきています。具体的なデータをもとに、オフィスデザインと心理学のつながりを紐解いていきましょう。

 

オフィス環境とモチベーションの関係

適切なオフィス空間、作業環境を用意することは、社員のモチベーションに大きく影響することが、研究などでわかってきています。

「(論文)オフィス環境が執務者のモチベーションに及ぼす影響に関する研究」によると、オフィス内には強くモチベーションを感じる場所があることがわかりました。とくにモチベーションを感じる場所として、以下が挙げられます。

・自席

・快適な作業空間

・邪魔が入らない場所

機能や環境、空間、人間関係が快適に揃った作業空間や、一人になれる静かで邪魔が入らない場所を備えたオフィスは、社員のモチベーション維持において重要だということがわかっています。

 

オフィス環境とコミュニケーションの関係

オフィス環境、とくに空間における視覚情報が、コミュニケーションや対人関係に大きく影響することも、研究などでわかってきています。

「(論文)オフィス環境デザインがコミュニケーションに対する期待に及ぼす影響」によると、「明るい」「あたたかい」「自然な」印象の空間は、コミュニケーションに対する期待や相手の信頼に対する期待に影響することが明らかになりました。

空間から得られる視覚的情報は、

・自分の感情

・相手の性格の印象

・自分と相手との心理的距離

の3つの心理的要因を経由して、コミュニケーションへの期待感と結びつくことが研究で示されています。

適切なオフィスデザインを取り入れることは、その場にいる人の感情や、そこで関わる人同士の関係構築において重要だということが伺えます。

 

オフィス環境とワークエンゲージメントの関係

厚生労働省が出している「 「働きがい」をもって働くことのできる環境の実現に向けて」の資料によると、ワークエンゲージメントとは、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」 (熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つが揃った状態と定義されています。

ワークエンゲージメントが高まることにより、仕事や組織への肯定的な態度、組織行動、仕事のパフォーマンス、健康が高まるとされています。

「(論文)働く環境とワークエンゲージメントの関係についての研究」によると、オフィスで自分らしく働けることやコミュニケーションのしやすさ、オフィスに対する愛着が社員のワークエンゲージメントに影響を与えることが示されました。働く環境が魅力的であることには価値があり、社員にオフィスを好きになってもらうことが、ワークエンゲージメント向上につながります。

オフィス環境は、社員の心理に大きく作用し、モチベーションやコミュニケーションに影響することが、さまざまな研究からわかってきています。社員の働き方をよりよい方向へと高めていくためには、心理学的な側面から科学的なアプローチでオフィス環境を構築することが効果的なのです。

心理学の側面から、働きやすい快適なオフィスデザインを考える

心理学の側面から「働きやすさ」に関わる要素を考えてみましょう。

先述の内容を踏まえると、機能や空間、人間関係が快適に揃っているかどうかや、自分らしく働けるかどうか、コミュニケーションのとりやすさなどが、社員のエンゲージメントやモチベーション維持に重要だとわかりました。

これらを「働きやすいオフィス」の観点でまとめ直してみると、以下のような特徴に整理することができます。

・精神的に落ち着いた状態で働ける

・心身をリフレッシュでき、快適に過ごすための設備がある

・社員同士でコミュニケーションが取りやすい

これらの特徴を達成する際に参考となる研究データをいくつか集めてみました。

 

疲労やストレスの緩和につながる空間デザインの研究データ

ひとつめは「(論文)オフィス緑化が勤務者に与える心理的効果に関する研究」です。この研究ではオフィス内に植物を設置し、そこで得られる心理効果について調査しています。

各自のデスクに植物を設置し、社員の心理状態を調べると、「緊張」「不安」「落ち込み」「怒り」「疲労」などのネガティブな感情が改善されることがわかりました。合わせて「仕事への意欲」や「職場環境への満足度」といった仕事・職場に対するポジティブな感情にもよい影響を与えていることがわかっています。

材質の観点から疲労やストレス緩和効果を示した研究もあります。

「(論文)木質空間およびビニル空間における疲労・ストレスの緩和効果 生化学的・心理学的指標による比較」によると、木材を使用した空間では、「緊張」「不安」「怒り」「疲労」などのストレス状態を示すすべての項目が低下したという結果が出たそうです。

植物や木材などの自然でナチュラルな要素をオフィスに散りばめることは、社員の疲労やストレスの緩和につながるため、心理的に働きやすさを感じられる空間となることがわかります。

 

心身のリフレッシュにつながる空間デザインの研究データ

心身のリフレッシュにおいても、さまざまな研究データが存在します。

「(論文)囲み空間での休憩が作業負荷の軽減に及ぼす影響」によると、半球状のフレーム型の椅子を覆うように布を掛け、手前にも布をたらした囲みのある椅子で休憩した際、布に覆われていない椅子で休憩した時よりも気楽さの評価が向上したという結果が示されました。

このように、オフィスなどストレスが発生しやすい環境では、周りから少し隔てられたスペースを用意することが居心地のよさにつながるとわかっています。

また居住空間の研究ですが、「(論文)インテリアと「癒し」および「和み」の感覚との関係」のデータも参考になります。

ここでは、どのようなインテリアが「癒し」や「和み」といった感情をもたらすのかを調査しました。結果、癒しを感じるインテリアには、以下のような特徴をもつことがわかりました。

1.植物があるか、それにかわる緑色を家具に用いている。

2.普段から馴染みのあるインテリアスタイル(自宅など日常生活に近いスタイル)である。

3.部屋や家具の素材に植物性の自然素材を用いている。

4.床に座るタイプや広いソファなど座り方の自由度が高い。

1、3はひとつ前の見出しで説明した通り、疲労やストレスの緩和にもつながる要素です。ほか椅子を中心としたインテリアのバリエーションが「癒し」につながることが示されています。

オフィス空間においては、通常のオフィスチェアだけでなく、ソファやビーズクッションなどの自然な形で座りやすい椅子を並べたエリアを用意したり、布やナチュラルな素材に囲まれた空間を用意することで、社員の心身のリフレッシュにつながるでしょう。

 

適切な作業スペースにおける生産性やコミュニケーション向上などのつながりを示した研究データ

働きやすさには、ストレスの緩和や心身のリフレッシュに努めるだけでなく、社員同士のコミュニケーションの取りやすさや、業務にあったワークスペースを用意することも重要です。

「(論文)屋外を模擬した空間が心理・生理及び知的生産性に与える影響」によると、屋外を模擬した空間での打ち合わせはリラックスしやすく、空間満足度が高くなるほか協働作業による生産性もよくなるという結果が得られました。また、休憩する場所として使用した場合、知的作業(マインドマップ)面で成績が向上する効果も得られたそうです。

また「(論文)カフェにおける家具の形状と利用者の行為に関する研究」では、勉強やパソコン入力としての利用率が高いのは、「壁に背を向けて座り通過動線から離れた落ち着いた座席」で、比較的天板面が大きくて高いテーブルが好まれました。一方、会話は賑やかな環境で行われ、多様な高さのテーブルで利用されていたという研究結果となりました。

これらのデータから、空間の特徴や家具の形状の違いは、感情の変化や行動の変化につながることがわかります。オフィス空間においては、画一的なレイアウト設計ではなくさまざまなバリエーションの座席を用意することで、社員はその時の気分や業務に合わせてより快適な場所を選べ「働きやすさ」を感じられるようになります。これは生産性向上などのよりよい業務成果につながるでしょう。

科学的な観点をもとに集中しやすいオフィスレイアウトを構築した実証事例

実際に、社員が仕事に集中しやすいオフィスレイアウトの実証実験を行ったケースとして「(参考事例)ワークスタイル変革モデル事業調査」を紹介します。

この実験では、オフィススペースにおける集中実態と稼働率の調査から、最適なオフィススペースの活用方法をテストしています。

分析結果を受けて、効果的に活用されていない2室の会議室を、集中力を促す空間などに設計しなおし、そこで業務を行った際の集中効果を測定しました。設計しなおした2室はそれぞれ「Deep Think Room」「未来対話ルーム」と名付けられ、それぞれ空間の目的が少し違います。

ひとつめの「Deep Think Room」では、入室した社員が「集中状態へのスイッチ」を入れられるような空間デザインがなされています。具体的には視界に入る情報を最小限にしつつ、他の人からの目線をさえぎる形で植物などの緑を適切に配置し、集中のしやすさとリラックス効果を両立した設計をおこなっています。

実際に自席とでの集中度を比較した結果、「Deep Think Room」の方が約1.6倍も集中できるという結果も出ているようです。

ふたつめの「未来対話ルーム」では、コミュニケーションを誘発するオープンな空間演出がなされています

利用者からは「未来対話ルームで意見交換会を行ったところ、靴を脱いでリラックスした雰囲気の中で忌憚のない意見交換ができたので、とてもよかったと思った。」や「これまでにない開放的な空間で事業者との打合せをしたことで、打合せ開始前から参加者に高揚感が見られた。」などのポジティブな声が上がりました。

まとめ

今回は、心理学をもとに科学的な側面でオフィスデザインを考えてみました。

オフィスデザインを検討する際は、社員の意見を取り入れつつも、これら科学的に裏付けられたポイントを盛り込むことで、よりモチベーションやコミュニケーション、エンゲージメント面で効果を実感できるはずです。ぜひ本記事を参考に、心理学的な要素を取り入れたオフィスデザインを再考してみてはいかがでしょうか。

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