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家庭でもオフィスでも「照明」は欠かすことができません。徐々にLED照明に切り替わりつつありますが、まだ蛍光灯を使用しているケースも珍しくないでしょう。しかし、ここで問題になるのが、「照明の2027年問題」です。 なんと、蛍光灯の製造、輸出入が2027年末までに禁止されることになっているのです。蛍光管の使用は禁止ではないのですが、製造、輸出入が禁止されれば、切れた蛍光灯を交換することはできなくなります。
本記事では「照明の2027年問題」とオフィスに関するその対応策を紹介します。
「水銀に関する水俣条約」によって、蛍光灯の製造、輸出入が禁止される
2027年末に蛍光灯の製造、輸出入が禁止される、その理由は「水銀に関する水俣条約」によるものです。そもそも国連環境計画(UNEP)は2001年に地球規模の水銀汚染に関する活動を開始しています。2002年には人体への影響や汚染実態をまとめた報告書(世界水銀アセスメント)を公表。その後、各国の調整を経て、2013年に「水銀に関する水俣条約」として92カ国(含むEU)が条約に署名を行いました。そして、2017年8月16日に条約は発効しています。
条約の名称に「水俣」という日本の地名が含まれているのは、水銀による公害事件である「水俣病」に由来しています。もちろん、日本も同条約に署名しています。この条約になぜ、蛍光灯が関係あるのか、その理由は蛍光灯には水銀が使用されているからにほかなりません。
その後、2023年にスイス・ジュネーブで開催された「水銀に関する水俣条約第5回締約国会議(COP5)」によって、水銀添加製品である一般照明用の蛍光ランプ(住宅、事務所、工場、店舗、作業現場、街路灯等で一般的に使用されている蛍光ランプ)の製造、及び輸出入を廃止することが決定されたのです。2027年以降も、それ以前に製造、輸出入された蛍光管は使用できますが、蛍光管はいずれ切れるもの。すでに従来の蛍光灯照明をLED照明に切り替える需要が高まっており、LED照明や関連器具の価格上昇が危惧されています。
オフィス照明をLED化するメリットとは
世界的な条約、法律によって蛍光灯が使用できなくなることは事実です。一方で、オフィス照明をLED照明化することには、法律に従うこと以外にも、複数のメリットが存在します。主なものは以下のとおりです。
1. 消費電力が少なく、経済的
LED照明は消費電力が白熱電球の約1/6、蛍光灯の1/2程度だとされています。オフィス照明をすべてLED照明化すれば、オフィスのランニングコストを抑えることが期待できます。
2. 発熱量が少ない
白熱灯が熱を持つことは広く知られていますが、実は蛍光灯も熱を持ちます。照明が熱を持つと空調の効果にも影響します。
また、熱を持つことで照明器具の劣化を早めます。
3. 寿命が長い
LED照明は、白熱灯の約40倍、蛍光灯の約4倍の40,000~50,000時間の点灯が可能であると言われています。また、ON/OFFを繰り返しても劣化は進みません(蛍光灯は一度点灯させると1時間寿命が短くなると言われています)。そのため交換の頻度が少なく、照明切れのストレス、交換の手間を大きく軽減できます。
他にも「紫外線や赤外線の照射量が少ないこと」「点灯までの時間が短いこと」「水銀、カドミウムなどの有害物質が含まれていないこと」「落下の衝撃に強いこと」などもメリットとして挙げられます。
オフィスの照明をLED化するには
オフィス照明のLED化には、前述のように多くのメリットがあります。加えて、条約によって蛍光灯が使えなくなるのですから、早急にLED化に取り組む必要があると言えるでしょう。しかし、ここで気になるのが「どうすればLEDに交換できるのか」です。
まず、オフィスの形態によって取るべき対応は大きく代わります。大別すると、自社ビルか、賃貸なのか、ということになります。自社ビルの場合、照明器具の交換などは、すべて自社で解決するべき事柄ですので、自社内ですべてが完結します。
問題は賃貸オフィスの場合です。契約形態によってさまざまですが、基本的に賃貸オフィスには「原状回復義務」があります。内装などを変更した場合には、退去時には「原状回復」しなければならないのです。つまり、照明器具を交換すると、退去時にもとに戻す必要があります。ランプを交換するだけであればそれは「消耗品扱い」なので、オーナーには関係がありません。
ところが、今回のLED照明化の場合、従来の蛍光灯照明は使用できなくなるため「原状回復」が意味をなさなくなる可能性があるのです。
そこで「オーナーと相談し、オーナーの責任で照明器具を交換する」、あるいは「オーナーの許諾を得て、テナント側で照明器具を交換する」のといった対応が考えられます。
当然、オーナーもLED照明への交換が必要なことは理解されているでしょう。それを踏まえて、協議の上で対応する必要があるのです。
以下では、「自社ビルあるいは賃貸でもオーナーの許諾を得て、テナント側で照明器具を交換する場合」のポイントを紹介します。
ポイント1 蛍光管だけをLEDに交換するのは危険
まず、考えられるのが、「蛍光管だけをLEDに交換する」という方法です。市場には、形状が蛍光灯(直管蛍光灯)とほとんど同じで、既存の照明器具につけられる直管LEDランプも販売されています。
しかし、何のチェックもせずに、この「直管LEDランプ」を使用するのは危険です。照明器具そのものが、LEDに対応している必要があります。
照明器具には「蛍光灯の明かりを安定化させる機器=安定器」が取り付けられています。この安定器がつけられた照明器具に直管LEDランプをそのままつけると、異常な発熱を起こし、場合によっては火災の危険性があります。また、安定器そのものも電力を消費するため、期待するほどの節電効果は得られない可能性があります。
使用している照明器具が新しく、直管LEDランプに対応している場合は問題ありませんが、現状では蛍光灯が使用されている照明器具の大半が、LEDに対応していないのです。
ポイント2 専門家のチェック+照明器具の工事が必要
素人が見た目だけで「現在の照明器具がLEDランプに対応かどうか」を見分けることは困難です。専門家の確認が必要ですし、対応していなかった場合、工事が必要になります。工事にも2種類あり、既存の照明器具を生かして安定器をバイパスする方法、照明器具そのものを交換する方法があります。
前者は既存の照明器具を生かすので、丸ごと交換するよりもコストを抑えられることが可能です。しかし、照明器具そのものが古くなっている場合などは、避けたほうがいいでしょう。
後者の場合、照明器具を丸ごと交換するので、一定以上のコストがかかります。しかし、長年使用し続けている照明器具などの場合は、この機会に一新したほうがいいケースも多いでしょう。
まとめ
いまオフィスでは照明が徐々にLED照明に切り替わりつつあります。ただし、毎日当たり前に使用している照明が、「まだ蛍光灯のままなのか、LEDに切り替わっているのか」を意識している人は少数派かもしれません。2027年末までに蛍光灯の製造、輸出入は禁止されます。実際にはそれより前にメーカーが製造を辞めることも考えられます。LEDに対応機器への切り替えも、ぎりぎりになると注文が集中し、工事事業者の対応が難しくなる、また機材の不足による価格の上昇も懸念されます。早めに対応したほうがいいことだと言えるでしょう。