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近年発生している自然災害やパンデミックなどの経験から、企業単位でのBCP対策が注目されていますが、最近はBCPのサポートを備えた大規模オフィスビルも増えてきています。

自社のリスクマネジメントを考慮するという点で、オフィスビル自体のBCP対策は重要な観点となりますが、具体的にどのような部分を見ていけばよいのでしょうか?

 

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さまざまなBCP対策を備えた大規模オフィスビルが増えてきている

BCPとは「Business Continuity Plan」の略で、自然災害などの緊急事態が発生した際に「いかに事業を継続させるのか」や「事業の復旧をどのようにして行うのか」などを計画する取り組みです。BCP対策は企業の義務ではありませんが、地震などの災害や新型コロナウイルスの流行で、近年重要性が高まっています。

 

企業におけるBCP対策導入の背景を少し深掘してみます。まず2004年の新潟県中越地震をきっかけに、BCPが注目を集めるようになりました。これ以降、金融機関や外資系企業を中心にBCPを意識したオフィスビル移転の動きが見えはじめるようになります。とくに外資系企業は従来BCPへの意識が高い傾向にあり、ビルの耐震性や電力供給、周囲の治安などさまざまな観点から信頼できるオフィスビルの選定を行っているケースが多く見られました。

 

1990年代後半から2000年代にかけて、国内企業の間でも徐々にBCPへの意識が広がりつつありましたが、大きなきっかけとなったのが、2011年の東日本大震災です。これにより東京を中心に耐震性はもちろんのこと、安定した電力供給やハザードマップを考慮したオフィスビルを選択する企業が増えました。

あわせてビルオーナー側も建物自体の耐震性や電力供給などのBCP機能をアピールするようになり、オフィスビルにおいてBCPに関する要素はより重要性を増してきています。

このように、BCPは企業単位だけでなく、オフィスビル単位でも強く意識されはじめています。自然災害が多い日本において、企業のBCP対策は社員や顧客を守る重要な取り組みのひとつといえるでしょう。

オフィスビル観点でBCP対策に取り組む際、どのような点に着目すべきか?

BCPを考慮したオフィスビルを選ぶ際に、注目するべきポイントがあります。ここでは、BCPの観点から確認しておきたい、オフィスビルの設備について解説します。

地盤やハザードマップ

まず確認しておきたいのが、オフィスビルが建つ場所自体の災害リスクです。エリアの地盤状況やハザードマップを確認し、災害時に予測される影響をあらかじめ調べておきましょう。事前に災害時の被害を予測しておけば、いざ緊急事態が起こっても適切な対応が取れるようになります。

 

とくに、エリアごとに作成されているハザードマップを活用した避難経路の確保や、帰宅困難者への対策は欠かせません。また、地盤状況を活用し、あらかじめ地震の発生確率が低いエリアを選ぶことも可能です。

 

地震や水害、土砂災害などあらゆる場面を想定し、できるだけ災害が起きないエリアを検討することはもちろん、想定される災害への対策を強化しているビルを選択することもリスク対策として有効です。

 

耐震性

地震大国である日本において、地震対策は欠かせません。地震による被害が深刻化しており、オフィスビルにも多大な影響が及んでいるためです。

 

日本の建物は建築基準法に則って設計されています。その中でも耐震性を重視するのであれば、建築確認日が1981年6月1日以降の「新耐震基準」を満たした物件を選びましょう。

 

また、ビルが耐震性能を確保するための構造であるかどうかも重要なポイントです。耐震性が確保された構造として以下の3つが挙げられます。

耐震構造とは、揺れによるあらゆる力に耐えられる構造で建物を建築する方法です。建物の基礎や柱などの構造体を強くし、丈夫な物などで接合部分を固定し補強することで耐震性を向上させます。

制震構造とは、揺れの軽減や吸収を目的とした構造を指します。制震構造では、振動を軽減させる「制震ダンパー」を構造に組み込むことで揺れを吸収させる仕組みです。

免震構造とは、地震による揺れを建物に伝えさせないための構造を指します。免震装置(ダンパーや積層ゴム)を建物と基礎の間に組み込み、揺れを直接建物に伝わらないようにする仕組みです。

 

オフィス選びでは、築年数が古い・新しいだけでなく、どのような構造対策が行われているのかにも注目する必要があるでしょう。

 

電力供給

BCP対策において、電力供給面の確認は非常に重要です。緊急時に電力が断たれてしまうと、あらゆる企業活動ができなくなるためです。

 

オフィスの受電方式には、単一回線で受電する「1回線受電※1」、複数の回線で受電する「本線予備線受電※2」「スポットネットワーク受電※3」「ループ受電※4」などが挙げられます。その中でも安心な受電方式は、災害時や点検時にバックアップ系統から電力が供給される複数回線の受電方式です。また、受電設備の設置場所にも注目しましょう。津波や洪水による被害を避けるためには、高い場所など水害にあいにくい場所を選ぶべきです。

 

一般的な電力供給だけでなく、ガスなどの燃料を使って発電するコージェネレーションシステムを備えたオフィスビルも増えてきています。コージェネレーションシステムとは、燃料による発電気で電力を生み出し、その際の排熱を冷暖房や給湯器などに利用するシステムです。一般的な電力供給に加えコージェネレーションシステムを導入することで、災害時に電力供給が途絶えたとしてもガスを使って発電が可能となり、オフィスの電力供給の安定化につながります。

そのためコージェネレーションシステムを備えたビルは、より災害に強いといえるでしょう。

 

また災害が起きた際に、一定期間ビルに滞在できるように備蓄が確保されているかどうかも、オフィスを選ぶ重要なポイントです。

 

そしてビルが非常時に確保しておかなければいけないバックアップ電源は、消防法と建築基準法により定められています。消防法では、主電源の喪失から40秒以内の電圧確立と、最大120分以上連続運転できる容量をもつ防災設備が必要です。また、建築基準法では40秒以内の電圧確立と、最大60分以上連続運転できる防災設備が求められます。

 

近年竣工のビルの中には、非常時に、テナント専有部に10VA〜15VA/㎡の電力を供給するビルもあります。これらの電力はあくまでBCP対応用であり、事業を最低限継続させるために限られた電力をどのように割り当てるかは、企業ごとのニーズに応じて検討する必要があります。

 

※1: 変電所から1つの回線のみを受電する方式

※2: 本線と予備線の2回線で受電する方式

※3: 一次配電線を3回線で受電し、回線ごとに置かれた変圧器の二次側を共用する方式

※4: ループ状に配電線を構成し、常時2回線の受電が可能な方式

今後BCPを強化したオフィスビルはより注目されていく

2022年7月から8月にかけて行われたザイマックス不動産総合研究所の調査によると、「オフィスビルにおいて今後重要度が高まると思う項目」への質問に対し、70%の企業が「災害対応がしっかりしていること」と答えました。また、「今後オフィスビルに求めるものや変化していく設備」の問いには「災害・緊急時対応・BCP」が最も多い回答でした。

オフィスビルにおいて今後重要度が高まると思う項目

出典:ESGからみるオフィスビル設備① | ザイマックス総研の研究調査(2枚共)

 

自然災害が多い日本で、今後ますます優先度が高くなっていくであろうBCP対策。ただしBCP対策とひとくちにいっても、そこに含まれる項目はさまざまです。建物自体の耐震性や電力供給だけでなく、周辺のハザードリスクや治安状況など、オフィスビルが建つ立地環境も重要であり、何を優先するかは企業のBCP対策の目的によって変わります。

 

近年、企業価値の向上のために、BCPの需要が高くなってきています。その流れにあわせて、災害やパンデミックなどの非常時にも耐えられるように、機能が強化されたオフィスビルもさらに増えてくるでしょう。

※東京建物が参画している「東京駅前八重洲一丁目東地区市街地再開発事業」でもBCPを意識した最新のビルを建設中です。(2025年度竣工予定)

参考:東京駅前八重洲一丁目東地区市街地再開発事業(A地区・B地区)公式サイト

 

本記事を参考にBCPについての理解を深め、今後の移転やオフィス戦略の準備を進めてみてはいかがでしょうか。

 

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