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オフィス移転は時に、自社のさらなる成長の可能性を秘めています。ここではオフィスの立地にフォーカスし、移転が自社のビジネスにとってどのようなよい影響をもたらしてくれるのか、その重要性について解説します。
これからのオフィスで考えていくべき立地戦略とは
オフィスの立地とビジネスには密接な関係があります。オフィスの立地戦略をどのように考えればよいのでしょうか。
企業の成長とオフィス移転は深くつながっている
社員数の増加や業績向上、事業拡大など、ある一定のラインに達したとき、オフィス移転を考える企業は多いかと思います。近年は地震などの災害やパンデミック対策の観点からオフィス移転を検討する企業も増えてきているようです。事業活動とオフィスは密接につながっているため、オフィスの場所や環境は企業業績に影響するものと考えられます。
オフィス移転における立地戦略の重要性
オフィス選定時の優先順位は企業によってさまざまです。予算や規模、ビル設備など、企業の目的によって優先順位は多岐に渡ります。CBRE「オフィス利用に関する意識調査2023」によると、近年は移転において「立地」を最重要視する企業が多いようです。
根本には「人材獲得」との関連が強いようで、実際に立地の中でも「通勤利便性」など社員の働きやすさや人材の確保に直結した観点を重視する企業が最も多いです。
ほかにも「災害への強さ」や「業務集積度」などの観点を重視する企業もあり、オフィス移転における立地戦略は、その目的やゴールは企業によってさまざまであることがわかります。
人材の確保を筆頭に、さまざまな課題を抱える企業
コロナ後、経済の回復とともに、企業の人材獲得競争は激化してきているといわれています。実際、「人材の確保」は企業の課題として圧倒的に多いようです。
ほかにも「コストの増大(人件費除く)」や「自然災害・パンデミックによる事業継続リスク」、「テクノロジーへの適応(AIなど)」など、人材確保とは違う観点での課題を抱える企業も多いことがわかります。
企業の事業リスク・課題はさまざまであり、これらはオフィスの多様な立地戦略にもつながっていると考えられます。人材の確保なのか、コスト削減なのか、災害対策なのか、どのような課題やゴールを達成するのかによって、最適なオフィスの立地や選定指針は大きく違うのです。
オフィスの立地が叶える、さまざまな企業成長の形
先述の通り、企業課題や目的によって多様な立地の選択肢があり、立地にフォーカスしたオフィス移転は、さまざまな形の企業成長につながる可能性を秘めています。ここからは、多様な立地戦略の形をご紹介します。
アメリカのハイテク企業における立地戦略
アメリカのハイテク企業では、高学歴で優秀な人材のアクセスを原動力に、立地判断をとる傾向があります。高学歴で優秀な人材は、特定の地域に偏って集中しているという特徴をもつためです。
特に若く優秀な人材にこのことが強く当てはまるといわれています。彼らは雇用機会が豊富かつ、友人となれるような同年代の人間が多くいる場所に惹きつけられるという特徴をもつためです。そのため、アメリカではニューヨークやロサンゼルス、ボストンやワシントンDCなどの主要な都市に若く優秀な人材が集中する傾向にあります。
さらに、アメリカでは都市の規模が大きいことも重要な判断基準のひとつに挙げられます。人材プールの大きさや、優秀な人材を惹きつけるアメニティ(生活を快適にする環境が整っているなど)が揃いやすいという特徴をもつためです。実際にフォーチュン誌が公開する収益上位500の企業「フォーチュン500」の約90%が、人口130万人以上の大都市圏にあることがわかっています。
コロナによりリモートワークが増えても、これらの立地戦略は持続しています。若く優秀な人材の確保において都心部にオフィスを構えておくことは引き続き重要視されており、FacebookやAmazonなどを中心に、都心部へのオフィス投資を大幅に強化している大手ハイテク企業の姿も見られるそうです。
産学連携に取り組む日本産業
東京工業大学では、日本の産業界と協働し「大学城下町」を目指す取り組みを行っています。
“「大学城下町」とは、ビジネス領域や経営規模が様々な企業と、自由闊達に創造性を発揮している東工大が集い、多種多様な技術と知恵を結集して、挑戦的な試みを行い発展させていく場を思い描いた造語です。”
出典:東京工業大学「大学と企業が集う「大学城下町」~オープンな“知の探索”でイノベーションを起こせ~」
企業や大学がもつ専門技術に加え従来の枠組みを超えて多くの人が新たな価値を創造していくことで、日本の産業界をリードするイノベーションを生み出し、継続的に成長させていくという目的があります。
現在の産業界では、あらゆる分野において、業界の枠組みを超えた多様な知見の集約による技術革新やビジネス創出が求められています。大学城下町の取り組みは、大学の研究業績の向上はもちろんのこと、企業側において、社内で得られない異質な発想を学べる「人材育成」の場としての活用が期待されているのだそうです。実際、企業も大学城下町における取り組みに賛同しているようです。これに関連して、京都市においても企業と学生を繋げるような誘致施策をとっています。
全国屈指の大学と学生数を誇り、大学での研究者を多く抱える京都市には、産学公連携が進めやすい設備などが揃っており、ITベンチャーなどを中心に、新たなオフィス立地として注目されています。さらには「京都ブランド」とのコラボレーションから、外国の取引先を招待する際に、京都の知名度で興味を引きやすいというメリットもあるようです。
現在京都市では、オフィスを誘致するために2023年度から「京都市企業立地促進プロジェクト」に取り組んでいます。新たに創設された「賃貸用事業施設等立地促進制度補助金」や、制度が充実した「市内初進出支援制度」といった施策で、京都市内にオフィスを開設する企業に補助金を交付しているのです。
少子高齢化により人材獲得の競争が激化する中、京都が新たなビジネス集積地となるか注目を集めています。
ITベンチャーの聖地「五反田」の取り組み
東京の五反田エリアは今、ITベンチャーの聖地として注目を集めています。地域のブランド価値向上を目的に、五反田に本社を置くITベンチャー企業6社が一般社団法人「五反田バレー」を設立し、品川区と連携協定を締結しました。
五反田バレーでは採用難の課題解決に向け、企業と求職者のマッチングイベント「エンジニアはしご酒オフィスツアー」を行うなどの取り組みを行っています。その結果企業同士との交流もしやすく、ノウハウを共有することで事業成長に繋げていくといった文化もあるなど、企業集積への取り組みは五反田のブランド価値向上に寄与しています。
働く場所として新たに注目されている中野エリア
オフィス立地としては、東京や渋谷、新宿などのイメージが強いですが、中野エリアも魅力的な要素があり、近年働く場所として注目を集めています。
強固な地盤に位置していることや公園などの自然が豊かであること、大学の竣工により学生を含めた人口の増加などが理由として挙げられるようです。ファミリー層も多く、オフィスビルの周辺で地元住民や子どもたちが遊ぶという、従来のオフィス街にはみられない風景も広がり、働く場所としての新たな価値につながっているようです。
参考:東京建物が開発に関わり、管理運営を行う中野セントラルパークについて
移転での立地選定時に検討すべきポイントと考え方
ビジネスを展開する上で、自社における課題や目的により立地選定の項目は変化します。たとえば「優秀な人材の確保」や「ブランディング向上」「技術革新」などがこれに当たります。自社に最適な場所にオフィスを構えることが、事業成功のカギとなるのです。
自社の事業課題や目的を洗い出す
オフィスの立地選定に当たり、まずは自社の事業課題や目的を洗い出すことが重要です。事業課題や目的を洗い出すことにより、最適な立地を選択しやすくなります。
例として、一般的にいわれる、企業の事業課題や目的を挙げてみます。
・収益性の向上
・人材の採用や育成
・新たなサービスや事業の開発
・従業員満足度の向上
・コストの改善
・ブランド力の向上
企業によってどの項目を重要視するかはさまざまであり、どれを最も重要とするかで立地戦略は大きく変化します。ビジネス創出の観点であれば、企業交流を目的に、自社と近しい業界が集まるエリアにオフィスを構えるのが最適でしょう。
海外に向けて自社のブランド力を向上させたいなら、海外から見て価値が高いと感じられる人気のエリアがおすすめです。従業員満足度の向上を図るのであれば、交通利便性や周辺環境が充実したエリアにオフィスを構えることで達成できるでしょう。
課題や目的によって立地を検討する際の条件は多様なため、まずは「何故、オフィス移転に取り組むのか」を明確にすることが何より大切です。
自社の課題や目的がどのエリアに適しているのかを見極め、戦略的なオフィス選びを実現しましょう。
まとめ
企業の課題や目的によって、多様なオフィスの立地戦略があり、またそれに伴う企業成長の形もさまざまであることがわかりました。いずれも、まずは自社の企業課題を洗い出すことが、最適な立地の選択につながります。
本記事を参考に、企業の成長につながるオフィスの移転計画を策定してみてはいかがでしょうか。
参考資料