+PLUS 働く空間に何かをプラスする 今までのビジネスに何をプラスしたら、もっと働きやすい環境が実現できるだろう?

+TOWN ニューヨーク・MPD地区と中野を並べてみる

文=安田洋平(株式会社アンテナ)

MPD(Meat Packing District)

NYの流行発信源としてすっかり知られるようになった「MPD(Meat Packing District)」。観光客が多く訪れる「チェルシーマーケット」があるのもこのエリア。

「LOT-EK」のスタジオ

1992年、いち早く建築家ユニット「LOT-EK」はMPD地区に越してスタジオを構えた。
撮影=阿野太一

Puma-city

LOT-EKの最近の代表作「Puma-city」。LOT-EKはUNIQLO大阪心斎橋フラグシップ・ストアの設計なども手がけていました。
(写真提供= LOT-EK)

NYはマンハッタンのウェストリバー沿い、チェルシーより少し下った辺りにある「MPD」というエリアのことをご存知でしょうか。
新しいブティックやホテル、レストランやカフェなどが続々と出来ている、今やマンハッタンの中でも人気の地区。流行発信源として知られ旅行者の間でもここが目当てという人も少なくありません。

けれども実を言うと10年前、2000年代前半にこのエリアの風景は今とまるで違っていました。MPDというのは略称で、フルネームでは、ミート・パッキング・ディストリクト、日本語に訳すると「精肉地区」の意味。そう、この辺りはもともと精肉工場が集まっていたエリアで、お洒落な香りとは程遠かったのです。事実このエリアが徐々に面白くなり出しているというNY通の情報を聞いて2002年にリサーチした知人によれば、まだ通りは肉のニオイがして、ゴムのオーバーオールを履いたいかつい男たちがそれっぽく歩いていたと言っていました。それがいつの間にか倉庫や工場跡が改装され、新しいショップや隠れ家的レストランに生まれ変わって、街のブランドイメージも変わっていったのでした。

      

その立役者となったのはクリエイティブな仕事に就く人たちでした。たとえば、ジョゼッペ・リニャーノとアダ・トーラの2人による建築家のユニット「LOT-EK」は1992年にこの地にスタジオを構えました。なぜ彼らはあえてこの場所を選んだのでしょう。

「この場所は時間による断層的なレイヤーがあって、とても面白い場所だった。つまり朝は完全にミートプレイスで、オーバーオールを着たいかつい男たちが働いている。昼間はガランとしていて誰もいない。夕方になるとまた違った人種がウロウロしている。そうやってさまざまな階層の人たちが、一緒の場所で違う人生を送っているのを定点観測することが面白かった。そういう意味では、まさにNY的な場所、と言っていいかもしれない。さまざまな人種、階級、職業の混在、洗練された世界とそうでない世界の同居、センターではなくてローカル……」(記事「M.P.D.とLOT/EK 読み替えられたコンテクストの美学」より、※現在日経ビジネスサイトの記事は閉鎖中です)

エリアの魅力をいち早く発見できたのは、街を読み解く文脈を彼らがわかっていたからでしょう。

実はブランドとはそれに人が気づいていないところにこそ隠れているのかもしれません。人間の種類の混在性とか、カオス的な商店街とか、それでいて交通のアクセスが抜群なところとか、中野という街もポテンシャルを秘めていると思うのですが、もしLOT-EKが中野を見たらどう感じるのでしょうね。

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