WORKSCAPE INNOVATION

働く風景を変えていくジャーナル。それが「WORKSCAPE INNOVATION」です。次世代オフィスのコンセプトの開発・研究に長年携わってこられた岸本章弘氏がお届けします。

No.05 組織を開くオフィス 2011.07.05 up

文および図・写真=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表)

ウチとソトをつなぐ

「うちの会社は・・・」、「うちの部長は・・・」といった表現は、ビジネスの現場でしばしば耳にする表現でしょう。この「うち」の表現の元は、日常生活で聞かれる「うちの人」や「家内」といった表現にあると考えられますが、その意味するところは単に集団や場所の内側だけではないようです。よく知られたところでは、和辻哲郎がその古典的名著『風土』(注1)の中で、日本人が「家」を「うち」と認識し、家の「そと」の世間と区別していることは、単に物理空間の内外の区別にとどまらない認識につながっていると指摘しています。個人・家族・社会の関係において、日本人は家の外の社会を明確に区別している一方で、家の中の個人は一人一人を区別せず家族とまとめるというのです。そして、そうした前提に基づく人々の意識や行動は、「靴脱ぎ」などが特徴的な日本家屋における内外を明確に区別する構造によって規定されていることを説明しています。

それでは、「うちの会社」と表現される会社組織の文脈においても、同様に「オフィス空間によって内側の個人と会社が一体化し、外側の社会から明確に区別される」という関係性は成り立つのでしょうか。確かに、特に高度成長期の頃、日本の会社組織は疑似家族のようなものだと言われていましたから、家族のウチとソトを区別する表現がそのまま組織についても使われることに違和感はなかったでしょう。そして、もともとは物理的な内と外を区別した言葉が、組織の内と外の区別も包含する表現としても使われるようになれば、会社組織における「家」であるオフィスの内外の境界が、その空間の物理的な構造以上の意味を持つようになっていくのも自然な流れでしょう。つまり、多くの日本の会社員にとって、オフィスの内側は潜在意識的には家の内側に匹敵するものであり、その内外の違いはそこでの意識や行動にも影響していると考えられるわけです。

そんな日本の会社において、近年では外向きに開こうとする動きが見られます。かつては、あらゆる人材や資源を自前で抱え込み、時には肥大化する傾向にあった企業も、コアビジネスへの集中を図りながら簡素で柔軟な組織へと変容し、アウトソーシングなどの外部組織との連携によって、ビジネス環境の変化に迅速に対応できる態勢を整えようとしています。あるいは、オープンイノベーションといったキーワードにみられるように、外部の知識資源を積極的に活用しながらイノベーションを促そうという戦略の導入も盛んになっています。こうした動きは、組織を開いて外部とつながることの意義が認められつつあることの表れでしょう。

そこで今回は、ウチとソトをつなぐ手段の一つとして、オフィスがどう貢献できるか考えてみましょう。普通、オフィス空間は壁や窓で仕切ることによって自然環境から内部を隔離し、安定的な人工環境を作り出しています。では、その境界を開いて外部と内部をつないでみたら、働く人々の意識や行動にどう影響するでしょうか。先に指摘したように、物理空間の構造がウチとソトを区別する人の意識や行動に影響しているのであれば、空間を変えることでそれらを変えるきっかけとして活用できるのではないでしょうか。

注1:『風土 ― 人間学的考察』 和辻哲郎、岩波書店、1935年

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