WORKSCAPE INNOVATION

働く風景を変えていくジャーナル。それが「WORKSCAPE INNOVATION」です。次世代オフィスのコンセプトの開発・研究に長年携わってこられた岸本章弘氏がお届けします。

No.01 働き方の変化がもたらす行動と空間のミスマッチ 2011.04.20 up

文および図・写真=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表)

はじめに

写真1:カフェでPCを操作するビジネスマン

写真1:カフェでPCを操作するビジネスマン

「オフィスとはどんなところでしょう?
その空間をイメージしてみてください」。こんな質問を受けたとき、多くの人々の頭に浮かぶ典型的なイメージは、ネクタイ姿のオフィスワーカーがデスクに向かってPCや書類を扱っている姿でしょう。いわゆる「デスクワーク」です。確かに、オフィスワークの中心は長らくデスクワークでした。でも、今後もそれが続くとは限りません。机の上の書類や道具は電子化され、「デスクトップ」はPCで持ち運びできるようになりました。最近では、街中のこんな光景(写真1)はまったく珍しくありません。

オフィスワーカーも変わってきています。会社員の多くが男性中心で、定年までの長い時間を仕事場で過ごすことが普通だったのは過去の話。子育て、介護、自己実現、ワークライフバランスなど、働く人のニーズや志向の多様化が進む一方で、そもそも企業の側も正規社員としての終身雇用を保証できなくなっています。

つまり、仕事の道具や働き方が変わり、働く人のニーズが多様化し、働いてもらう企業の事情も変わってきているわけです。
当然、それらを支えるオフィスのあり方に対しても、大きな影響があるはずです。

というわけで、このコラムでは、こうした変化の中で、何がどんな影響をオフィス空間に対してもたらすのか、それらを受けてどんなオフィス変革が起こっているのか、といった話題を取り上げていきます。これからのオフィスづくりを考える上で参考になればと思います。

デスクワークからテーブルワークへ

第1回は働き方の変化と従来型オフィス空間のミスマッチについてお話ししましょう。

従来、オフィスワークの中心は分業型の情報処理でした。処理すべき情報の多くは紙の書類に記されていました。仕事の多くは各人が分担する「ソロワーク」であり、そのためのデスクワークの場所が各人の自席です。もちろん、会議室やコピーコーナーがあるように、デスクワーク以外の行為もあります。でも、「席外し」という言葉が象徴するように、自席以外での活動は一時的なもので、常に自席に戻ることが前提になっているのが普通でした。

しかし今、伝統的なデスクワークは減少傾向にあります。定型的な情報処理作業の多くが、情報システムによって自動化されたり、社外にアウトソーシングされたりするからです。代わって、オフィスワーカーにはもっと高度で創造型の協働作業が求められるようになってきました。グローバルなビジネス環境下での課題解決には、多くの人々の知識やスキルを組み合わせる臨機応変な「グループワーク」が必要です。そして、その場所は自席のデスクではなく、会議室やミーティングコーナーのテーブルです。つまり、グループワークの多くは「テーブルワーク」となるわけです。

図1:デスクワークからテーブルワークへ、仕事と共に必要な空間も変わる

図1:デスクワークからテーブルワークへ、仕事と共に必要な空間も変わる

ちょっと身の回りの出来事を思い出してみてください。外出の多い営業部門のオフィスでもないのに空席の多い昼間のデスクスペース。オフィスワーカー達は打合せや会議のために離席しています。その一方で、「会議室が足りない」、「なかなか予約が取れない」、といった話もよく聞きます。

これは、デスクワーク中心に作られた従来型のオフィスで、行為と空間のミスマッチが起こっているためでしょう。デスクワークが減ってテーブルワークが増えれば、空間配分のニーズもデスクスペースからテーブルスペースへと移行するからです(図1)。

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