WORKSCAPE INNOVATION

働く風景を変えていくジャーナル。それが「WORKSCAPE INNOVATION」です。次世代オフィスのコンセプトの開発・研究に長年携わってこられた岸本章弘氏がお届けします。

No.04 多様化するオフィス・ソリューション 2011.06.06 up

文および図・写真=岸本 章弘(ワークスケープ・ラボ代表)

変化に適応できる仕組み

写真1:ラップトップ型やノート型が登場する以前のPCの時代、それらをネットワークでつないで共有化し、道具や空間と人の関係を柔軟にしたユニークなオフィス。 一段高いところに座る秘書(右の女性)以外は 誰もが自席を持たなかった。

写真1:ラップトップ型やノート型が登場する以前のPCの時代、
それらをネットワークでつないで共有化し、
道具や空間と人の関係を柔軟にしたユニークなオフィス。
一段高いところに座る秘書(右の女性)以外は
誰もが自席を持たなかった。

これまでのこのコラムでは、仕事や働き方、働く人の変化がオフィスにどう影響するのか、そしてオフィスに求められる役割や機能がより高度になってきていることを紹介してきました。では、こうした背景や要件の変化に対して、オフィスにはどのような対応ができるのでしょうか。

実は、オフィスにおける新しい対応策の開発はもう進んでおり、その始まりは約20年前の欧米でのいくつかの実験的な事例まで遡ることができます。例えば、写真1は1990年代初頭のコンピュータメーカーの一部署で始まった小規模な実験的プロジェクトです。ここでは、「オフィスワーカーそれぞれが専用の自席を持つ」という、人と場所の伝統的な関係が崩れ、人々は非定住化しています。こうした手段によって彼らが目指したものは、一言でいえば「ビジネス活動のスピードアップと、オフィス環境のコストダウンの両立」でした。

その当時は、様々な分野での世界規模での規制緩和に伴って、市場環境のグローバル化と知識経済への移行が始まった時期でした。激しい競争と変化の速い市場の中で、多くの企業が事業の再構築や組織の再編を繰り返し、組織には常に迅速に状況に対応する柔軟性が求められるようになりました。当然ながら、そうした変化のたびにオフィス空間や情報インフラについても施設の改修や設備の変更などの対応が必要になります。しかし、その変化の規模や速さに対して、従来のような固定的なオフィスでは迅速な対応が難しく、そのためのコストも増え続けることになります。場合によっては、事前に調査した要件に基づいて計画・設計・施工している間にも変化が起こり、新しいオフィスができたときには当初の要件が大きく変わっている、といったことも起こっていました。

そうした状況にあって考え出されたのが、先の例のような「人・組織と空間・道具の関係が曖昧な」仕組みをもった新しいオフィスの解決策です。個人席のデスクやパソコンをすべて共通仕様にしたり、さらにはそれらをグループで共有したりすることで、組織の変化に対応するための環境の変化を最小限に抑え、時間も費用も下げようという方策です。

今日、ビジネス環境の変化はいっそう激しさを増しているといえるでしょう。仕事の変化と人の変化、そしてより高度な役割が求められながら、さらに迅速かつ効率的に変化に適応できること。これらの多様な要求に対応するため、オフィスは大きく変化しつつあります。以下ではその方向性や手段について具体的に見ていきましょう。

RETURN TOP